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​●黒川さんと遊佐さん

厨二ぼっちな黒川さんが天然腹黒遊佐さんに言い寄られて押し切られちゃうおはなし。​

初めて書いた百合短編。

​書き方こそアレでしたが未だに見直しても”自分が書きたいこと”が書かれている気がするお気に入りの作品です。

短編小説ですがゲームシナリオとして使用したため『;図書館』などのタグっぽい表記が混じった形式になっております。

;図書室

 みんなみんな、馬鹿らしい。
 昼休みの雑音が耳につく。
 そんなに群れて何が楽しいの?
 みんながみんな、お互いに利用してるだけ。
 それに気づいていないだけ。
 なんて愚か。
「ふん…べっ」
 私は違う。
 私だけは、みんなと一線を画する特別。
 みんなが誰かと一緒に居続けるのにご執心な間に、自分を知り尽くしている。
 みんなよりも自分を知り、自分に忠実に、自分に博識で、優れている。
 それが私。
「ふふ…」
 そう考えると、いつものお弁当も美味しい。
 部屋の静かな空気が身体に張り付くような感じがして、気持ちがいいの。
 ―――トントンッ
「…。」
 人はどうしてこう…せっかくの独りを妨げるのかしら。
「…はい」
「あぅぁっ、あっあっ、あのぉ…入っても、いいですか…?」
「どうぞ」
「し、失礼しまあす…ふわ、あっあっ、あの…黒川、さん…?」
「…はい」
「あっあっ、あたし!同じクラスの、えと、」
「遊佐さん」
「そっ、そうですっ!それで、あっあっ、あの、本返したくて…」
「お昼の返却はできないことになってるの」
「あぅ…で、でも、放課後は用事で…今日までじゃないと、って…だから…」
 やってきたのは、同じクラスの遊佐さん。
 落ち着きのない振る舞いと女の子らしいふわふわした容姿…
 特にふわふわな茶色がかった髪の毛が特徴的で、かつ、好印象な子。
 私だけじゃない、他の人も同じような印象らしく彼女の周りには友達が多い。
 …そんな彼女だけど、私は好きじゃない。
 羨ましいとかじゃないけど。
 あの振る舞いも、容姿も、どこか嘘くさく見える。
 羨ましいとかじゃないけど。
 だから今にも食べられそうな羊みたいに震える彼女を見ていると、イライラする。
「貸出カードを出して」
「えっ、あのっ、でもっ」
「早く」
「あっ、はっ、はいっ!出しますっ!」
「すぐに、あの、あっ、あれ…?どこにしまったっけ…すぐ出せるようにって…えぇっとぉ…」
 遊佐さんと話すのは初めてだけど、どうにも要領が悪い。
 この不器用さも、嘘くさい気がするけど、私をイラつかせてなんの得があるんだろう
 …本当に、これが素なのかもしれない。
「あっ、ありましたーっ!ありましたよ黒川さんっ!」
「はい、ハンコ」
「ありがとうございます黒川さんっ!」
「早く戻ってお昼ご飯を食べたほうがいいわ」
「あっ、それならもう食べてきちゃって…あっあっ、もしかして黒川さんはまだでしたか…?」
「………。」
 鬱陶しい。
「えぇ、だから教室に」
「待ってますねっ!」
「………。」
 嫌がらせされてるのかしら。
 いいえ、あせあせしながらドヤドヤしている遊佐さんからはそんな厭らしさ感じられない。
「あっ、あたしのことは気にしないで、お好きにたべてくださいっ!見てますからあたしっ!」
「それが嫌なんだけど。」
「えっ?」
 結局、お弁当はあんまり美味しくなかった。
「…ごちそうさま」
「あっ、食べ終わりましたかっ?一緒に教室いきましょうっ!」
「…ねぇ」
「はいっ?」
「なんでわざわざ待ってたの?」
「先に戻っていれば良かったじゃない。結局、見ているだけだったし」
「あ、ぅー…それはー…そのぉ………」
「何か用があったんじゃないの?」
「ちっ、ちがうんですっ…用事とかじゃなくって、えっと…そのぉ………」
「…嫌がらせ?」
「違いますっ!!」
「じゃあなんなの?答えて」
「それは…うぅ…黒川さんとお話したかったんですよぅ…」
「私と?」
「だっ、だって黒川さんって綺麗だし、かっこいいし…その、ちょっぴり憧れちゃうなーって思ってて…」
「でも急に話かけるのも、なんか、アレだなーって思って、そうだ本返そう!って………」
「わざわざお昼休みに?」
「…黒川さん、いっつもココで食べてるから」
「知ってて来たってわけね」
「うぅぅぅ………」
「…ま、いいけど」
「あっあっ、あのっ!明日はっ、ちゃんとっ、一緒にお弁当食べようね!!!」
「…タメ口になってる」
「はぅっ!」
「それに、誰かと一緒が嫌だからあそこに居るの」
「はぅぅ…」
「今日だって遊佐さんが居たからお弁当がおいしくなかったわ」
「う゛ぅっ…」
「………ま、いいけど」
「ふぇっ?くっ、黒川さん今」
「先行くわ」
「ちょ、ちょっとまってぇ~!」
 私はみんなより私を知っている。私は私に忠実。だから優れている。
 だから私は、遊佐さんと接するのが苦じゃなくて、むしろ楽しんでる自分を感じる。
 悔しくなんかない。
 ただ、私の心がそう感じたから、受け止めるだけ。
 ………みんながみんな、利用しているのなら私も利用してやればいい。
 遊佐さんを、私の玩具にしちゃえばいい。
 だから別に彼女に惹かれたわけじゃない。
 別に。
 
 ………………。
 
 …………。
 
 ……。
 
;図書室
 
 次の日、遊佐さんは宣言通りにまたやってきた。
「体育、楽しかったですね黒川さんっ」
「…また、分かってて声かけたのね。私がいつも独りなの」
「えへへぇ…バレちゃいました?」
「バレバレ。いつもみたいに、大勢で楽しく騒げばよかったのに」
「うっ…そっ、そんなに騒いでますか、あたし…」
「えぇ」
「うぅぅ…黒川さんにうるさいって思われたぁ…」
 今日一日、遊佐さんは何かとつきまとってきた。
 いつも遠巻きに眺めていた彼女の笑顔が近くって、それだけでなんだか彼女のことがわかったような気がした。
「遊佐さんは、人を見るのが上手ね」
「えっ?」
「…なんでもない。早く食べましょう」
 体育のとき、私はいつも以上に遊佐さんのことを意識していた。
 そんな私の気持ちを察したように、遊佐さんはぴょこぴょこと近づいてきて…
 一時間一緒に過ごしてしまった。
 そういう、人の気持ちを汲み取るのが上手いのかもしれない。
 だから、あれだけの人に好かれて、囲まれて、慕われているんだろう。
 遊佐さんを取り囲む彼女たちの気持ちが、少しわかった気がする。
 …私が一緒に、なんて決して絶対望んでいないけど。
「…あたし」
「…?」
 遊佐さんは取り出したお弁当を膝上に置いたまま、俯いてポツリとつぶやいた。
「人見るのが上手、ってわけじゃないです」
「…え?」
 いつも弾んでいる遊佐さんが、ずいぶん沈んだ声を出すものだから驚いてしまった。
「なんとなく、こうしてほしいのかなーこんな気持ちなのかなーって思う時があって」
「思ったときにはあたしがそうしてて…だから、頑張って人のことを見てるとかじゃないんです」
「そう、なの」
 遊佐さんは箸も出さず、俯いたまま話した。
「それで、そういうことばかりしてちゃだめだなって思って、我慢、そう、我慢しようとしたんです、あたし」
「…人のためになることなら、我慢しなくてもいいんじゃないかしら」
いつもと様子の違う彼女に動揺して、なぜだかフォローしてしまった。
「……………あたし、自己中なんです」
「じこ、ちゅう?」
 人のために、と動く遊佐さんが自己中なら一体誰が自己中じゃないと言えるのだろう。
 けれど、遊佐さんにとっては常日頃から考えていることなのかもしれない。
 でなければ、こんな真剣な面持ちで口に出したりしないはずだもの。
「そんなことないと思うけど。」
 遊佐さんがどうして私に声をかけてきたのかいまいち納得のいかないところもあったけれど、もしこんな話をしたくて私を頼ってきたなら悪い気はしないし、どうにかしてあげたい。
「遊佐さんは、遊佐さんのしたいようにしているだけ。なにも打算的に、相手を出し抜いて蹴落としてやろうと考えているわけでもないのでしょう?」
 独りが好きな私だから、よくわかる。
 人と接することで見えてくる自分が怖くて、醜くて、恐ろしいから悩んでしまっているのだろう。
 私は、独りを選ぶことで解決した。
 でも、彼女があくまで人と接することで悩みと…自分と向き合おうとしているのだとしたら、私は力になってあげたい。
 私にできたことを、私にできなかった方法で、挑戦している彼女の背を押してあげたい。
「遊佐さんは本当に、心のそこから人のことを考えられる人なんじゃないかしら。」
「だから、そうして自然に行動に移して、人の心に触れられる。」
「…なら、それは自己中ではなくて”あなたらしい”というの。決して、否定するものじゃないはずよ。」
「………あたし、らしい」
「えぇ、だからそう思い悩むことじゃないと思う。」
「………じゃあ、黒川さんは、あたしらしいあたしを、否定しませんか?」
「えぇ。昨日今日だけだけど、遊佐さんは悪い人じゃない。」
「……そう、思いますか」
「そう思うわ。」
「……………。」
 ガシャン。
 急に立ち上がった遊佐さんのお弁当が落ちた。
「え?な、やっ」
 肩を掴まれた。
 座っていたパイプ椅子から引きずり下ろされるように押し倒された。
 膝上のお弁当が床に散らばって、箸がカラカラと転がっていった。
「いたっ…!」
「黒川さんって、意外と子供っぽいですよね」
「はぁっ…?ちょっと、いきなりなに…」
「あたしのこと、パッと名前が出てきちゃうくらい気にしてたんですよね?」
 両腕を膝で抑えられた。
 私の上で膝立ちになっている彼女はわずかに震えている。
 腕が少し痛くって、彼女の顔がよく見えない。
 ピントが合わない。
「黒川さん言いましたよね?私に見られながら食べるのがいやだーって。でもホントに嫌なら、あんな言い方しませんよね?私に居てほしいって、思ったんですよね?だからあんな言い方したんですよね?」
「いたっ、うで…いた、い…」
「どうしてまってたのかー…なんて、わざわざ聞かなくても、私の気持ちわかってましたよね?黒川さんを待ってたんだーって。それってつまり、私に言わせたかったんですよね?黒川さんをまってたんですーって。」
「ゆさ、さん…?」
「大勢で騒ぐあたしを見て、楽しそうだーって思ってたんですよね?それを嫌味みたいに言ったけど、黒川さんは楽しそうって思ってた…あたしみたいに、みんなと楽しくしたいって思ってた。」
「でもそんな風に思ってても素直になれない自分が子供っぽくて嫌だから、あたしにちょっぴり冷たくしてたんですよね?」
「…」
「黒川さんは、あたしのことキライなんかじゃないんですよ。」
 ガッ、と遊佐さんが倒れ込みながら顔を寄せてきた。
「黒川さんはあたしに憧れながら、嫌いになりながら、意識して…」
 私の顔を挟み込むように肘をついた遊佐さんが近い。
 彼女のふんわりとした髪が広がって、遊佐さんしか目に映らない。
「あたしにちょっぴり冷たくして、嫌いだからこうしてるんだーって自分に言い聞かせて…でも、違いますよね?」
「えっ…?」
「あたしのこと、玩具みたくからかいたいって思ってたんですよね?だから、優しくしながら、冷たくしながらって…してたんですよね?」
「…。」
 彼女の顔を見たくない。
 でも、顔を背けられない私は目をつぶるしかできない。
「でも、いっつも独りな黒川さんが望んでたのはそんなことじゃないですよね?」
「えっ…?」
 思わず、彼女の顔を見てしまった。
「いっつも独りで、独りが好きって言っちゃう強がりで、みんなと一緒なあたしの名前を覚えちゃうくらい寂しがり屋な黒川さんは、もっともっと…特別が、いいんですよね?」
「な、そ…」
「もっと強引に、もっと強く、もっと特別にしてほしいんですよね?」
「あ、ぅ」
「黒川さん…んっ」
「んんっ…!?」
「んふっ…んはぁ、ふっ、んっ」
「はふぁ、んん…んふぇぁ、はんっ……なん、ゆっ、んんんっ…」
「んふぁっ…はぁっ、はぁっ」
「はぁ…はふぁ…なん、なに、するのよ…」
「ほら、黒川さんドキドキしてる」
「こっ、こんなことされれば誰だってするわっ!」
「ううん、ホントに嫌な人はもっと苦しそうな顔しましたよ」
「わっ、私…だって…」
「ねぇ、今度は黒川さんからして…?」
「なっ」
 そう言いながら、遊佐さんは私の唇をなぞった。
 感触を楽しむように、少し濡れて、震える唇を撫でながら、つづけた。
「それで、もっと凄いのしましょう…?」
 遊佐さんは私の唇をなぞった指で、そのまま自分の舌を撫でてみせながら、あと少しというところまで顔を近づけた。
「はっ、はっ…ぅ…」
「黒川さんがしてほしいこと、いっぱいしてあげます…したいです。だから、ね…?」
 驚きと緊張と恥ずかしさでまともに頭は働いてない。
 でも、でも、すごくドキドキして、遊佐さんの唇から目が離せない。
「特別に、してあげます…」
「んぅっ…!」
「んっ…黒川、さん…んんっ」
 もう、もう随分手遅れだったのだとおもう。
「んぅっ、へぁぅ…ゆひゃ、ひゃん…」
「んちゅっ…ちゅ…ちゅぅ…」
 彼女をこの部屋に入れたとき、もしかしたらもっと前から。
「ふぁ、ぅぅ…んふぅ…」
「んっ…んっ…んちゅ、ちゅぅ…」
 私が特別に憧れた時点で彼女に気づかれていたのかもしれない。
「ふぁぁ…はっ、はっ…はむ…んむぅ…」
「くろかわさん…んむっ…はむっ…んちゅっ、ちゅっ…」
 彼女の柔らかい感触に包まれながら、時々引き剥がされそうになる唇に、必死に吸い付きがら。
 私が彼女の特別に、彼女が私の特別になっていくのを感じた。

 ………………。
 
 …………。
 
 ……。

;図書室

 みんなみんな、馬鹿らしい。
 昼休みの雑音が耳につく。
 そんなに群れて何が楽しいの?
 みんながみんな、お互いに利用してるだけ。それも、手探りで。
 そんな関係が意味のないことに気づけないなんて、なんて愚か。
「黒川さぁーん?あっ、居た居た。もぉーどうして先に行っちゃうんですかっ?」
 私は違う。
 私だけは、みんなと一線を画する特別。
「…ちょっと、いじわるしたかっただけよ」
「んへへぇ…いじわるされちゃいましたぁ…」
 嘘を疑うことも、疑わないことも、何も意味がない。
 本当に必要なのは、ただそこに居るだけでお互いがわかる本当の特別だけ。
 その特別を手に入れた私に、もう憧れはない。
「…じゃあ、お返ししちゃいますよ?」
「…えぇ、おねがい」
 部屋の静かな空気と、彼女の肌が張り付くのを感じながら。
 私だけの特別を噛み締めた。
「遊佐さん…」
「だいじょぶですよ、黒川さん」
「黒川さんは、ずっと私の特別で…」
「遊佐さんは、ずっと私の特別よね」
「はいっ」

 ………………。
 
 …………。
 
 ……。

 

 めでたしめでたし
 

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