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​●​ぼくとたかのなつやすみ

■概要

Vライバー鷹羽奈シルヴァさん(TwitterID @takahanaShilva URL https://twitter.com/takahanaShilva)の「夢小説選手権」のため制作した夢小説です。

お姉さんっぽい見た目と、お茶目な性格が魅力的なライバーさんなのですが見た目の神秘的でお姉さんな要素強めに描写しつつ、お茶目加減をめちゃくちゃ可愛く見える方向へ振ってキャラ感を作ってみました。

おねショタなのはシルヴァさんのお姉さんらしさが強調されるかな、っていう意図とリスナーとライバーさんっていう距離感が突然出会ったお姉さんと少年っていう距離感に近いものがあるかなと感じたのでリスナーさんが見た時に親和性とか自分を少年に置き換えるっていうのが容易かなと思ったので……。

■あらすじ
 「ぼくは、この季節がだいっきらいだ。」
 少年は、夏休みにいつも連れて来られる退屈なおばあちゃんの家を抜け出して、大きな翼を持った鳥人の女性に出会う。
 初めての楽しい夏休み。鳥人に連れられて、いつもは憂鬱な花火大会を最高の気分で過ごした少年は、二度と鳥人に出会うことは無かった。
 例え二度と会えなくなったとしても、少年の心の中であの夏の日の出来事はいつまでも輝き続けるのでした。
 そうして、大人になった男は今日も患者さんの名前を呼ぶ。
 それがあの日の鳥人の名前だと気づかないまま。

■キャラ

・鷹羽奈シルヴァ
 名前も知らない鷹のお姉さん。
 バサバサ飛べてめちゃくちゃかっこいい

 300年以上生きている鳥人。

 山間の村近くの山奥に住んでおり、村人と時折交流しているものの滅多に人前に姿を表さない。

 ナイーブな性格で人間と関わる事が好きだが、自分の感じる時間の流れと人間が感じる時間の流れが違い過ぎるため親しくなったのに(自分にとっては一瞬で)関係が切れてしまったり死んでしまったりすることが耐えがたく辛くて、近年は人と関わる事が無くなっている。

 長く生きている為、身体もほんの少しずつ弱ってきており最近腰を痛めた。
 >羽ばたいては滑空、羽ばたいては滑空を繰り返して飛行するイメージ(ハイタカがそういう飛び方らしいので。参考https://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1476.html)
 タカの仲間はオスよりメスの体が大きいのが普通らしいのでおっきい
 >ダンテの叙事詩『神曲』地獄篇の中では、地獄第七圏第二の環・「自殺者の森」において、自ら命を絶った者が変容した樹木を啄ばむ怪鳥として描写されている。(参考ウィキペディア『ハルピュイア』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%83%94%E3%83%A5%E3%82%A4%E3%82%A2)
  →ツリーハウスみたいなところに住んでるイメージ

 アクセサリーはクサイチゴのものらしい。

 >花言葉は「幸福な家庭」「尊情と愛情」「先見の明」「誘惑」などがあります。

 >「クサイチゴ」に固有の花言葉はないため、イチゴ全般の花言葉が当てはまります。

 >良い意味の言葉が並びますが、男女の関係を思わせる言葉もある為、相手や場所には注意しましょう。

(参考https://hananoiwaya.jp/%E3%80%8C%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%81%E3%82%B4%E3%80%8D%E3%81%AE%E8%8A%B1%E8%A8%80%E8%91%89%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%E8%89%B2%E3%82%84%E7%94%B1%E6%9D%A5%E3%81%AA%E3%81%A9%E8%8A%B1%E8%A8%80/#:~:text=%E3%81%AE%E8%8A%B1%E8%A8%80%E8%91%89-,%E3%80%8C%E5%B9%B8%E7%A6%8F%E3%81%AA%E5%AE%B6%E5%BA%AD%E3%80%8D%E3%80%8C%E5%B0%8A%E6%83%85%E3%81%A8%E6%84%9B%E6%83%85%E3%80%8D%E3%80%8C,%E3%80%8C%E8%AA%98%E6%83%91%E3%80%8D%E3%81%AA%E3%81%A9%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

  →少年を誘惑したり男女関係をイジるような発言、冗談、興味ありげな振る舞いをする。

・ぼく
 夏休みに田舎のおばあちゃんちに泊まりに来た。
 友達もいないしおじいちゃんおばあちゃんばっかりがワイワイ話したり、お母さんが涼しい台所でばあちゃんたちと麦茶飲んでるのがつまんなくてイヤになってたところ「鳥のお姉さん」に出会う。

 女性として鳥のお姉さんの事は見ていなかったものの、後になって鳥のお姉さんが初恋だったのだと実感する。

 成長期を迎えるとイケメン高身長に育ったものの中学・高校と鳥のお姉さんの事が忘れられず、同年代の女子を鳥のお姉さんと比べて見てしまう上、勉強熱心だったため、恋愛らしい恋愛が起こらなかった。
 お姉さんをマッサージしたことがきっかけで、保健医療学部へ進み、理学療法士となった。

 医学部に受かることも出来るほど優秀に育ったものの、「この世に鳥人の医療技術は無いから」と医学部へ進学しなかった。

 独自に鳥人の研究資料を集め、独学で鳥人用の医療技術・薬学を研究している。ごく親しい友人にだけは研究資料を見せているものの毎度「性癖歪んでるよお前」と言われてちょっと引かれている。

​ 研究内容は大学時代の研究室の教授からは評価されており、卒業論文として発表したり博士課程を目指してもいいのではないかと言われたが「もしも僕以外が鳥のお姉さんを見つけたら一体何をされるか分からないからイヤです」と言って発表しなかった。

 夏休み。
 ぼくは、この季節がだいっきらいだ。
 必ず連れていかれるおばあちゃんちまでの車は、すっごく時間がかかって気持ち悪くなるし。
 おばあちゃんとおじいちゃんは、いっつもテレビを見てるか洗い物かお料理。時々トランプで遊んでくれるくらいでつまんないし。
 お母さんは、いっつも台所で扇風機にあたりながら麦茶飲んでるだけでなんにも楽しくない。
 いつも遊んでくれるお父さんは仕事でおうちを離れられないから、おばあちゃんちには来ないし、つまんない事ばっかだ。
 だから、あの時は本当にビックリしたんだ。
 つまんないおばあちゃんちを抜け出して、おじいちゃんに無理くり被せられたでっかい麦わら帽子を被って、何にもない田んぼ道をトボトボ歩いてた時。
 地面の上を飛行機みたいにデッカいデッカい鳥の影が――人の形をした鳥の影が、山の方へ飛んでいくのを見た時は、図書室の絵本の中の世界に入ったみたいな気がしたんだ。
 入った事無い裏山は草だらけで、でっかい木の葉っぱの間から眩しい日差しがたくさん差し込んでて、汗だくになりながら冷たい風が吹いてくる方へずんずん向かっていくと。
 おっきなおっきな両腕の翼を広げて、「ふわぁ~あ」ってあくびをしてる鳥のお姉さんが川辺のおっきな岩の上に立ってた。
 鳥のお姉さんは、すぐにはぼくに気づかなくって。
 広げた翼をバサッ、バサッ、バサッてその場で羽ばたかせると。
 グーって伸びをして……途中で、ビクッて体を縮こませて「いたた……」って言った。
「だいじょぶ?」
 思わず声をかけた途端、鳥のお姉さんがグンッてこっちを向いて。
 明るいところに居るネコみたいに金色の目をぐーって鋭くして。
 デッカい風の音と一緒にバサアッておっきく羽ばたくとぼくの目の前までひと息に飛んできて身動き一つ取れないぼくのことを覗き込んだ。
「あら、人間の子供。よくココに入って来られましたわねぇ」
 ギョロギョロって音が聞こえそうな目でぼくの顔をジロジロ覗き込みながら鳥のお姉さんは目を見開いたままニッコリ笑った。
「あ、ぁ、その、腰、いたいの? ぼく、その、すごい、ひと、とり、ひとがいるっておもって」
 ぼくはそのまま取って食べられるんじゃないかと思って、麦わら帽子を取って、身振り手振りで、鳥のお姉さんを心配しただけなことを説明した。
 そしたら、鳥のお姉さんは「ふぅん」って言ってニッコリ笑いながら、ぼくの足先から頭の先までを舐めるように見ると。
「そうなんですのよ。フフ、心配してくれてありがとう。よかったら、マッサージ……してくださる?」
 そう言っておっきな翼をパタリ、ってたたんだ。
「え、い、いいけど」
「ンフフ。やさしい子は大好きですわよ」
 そう言うと、鳥のお姉さんはまたバサバサッて羽ばたくと、ぼくのおなかをおっきなおっきな足のツメでわし掴みにして飛び上がった。
「わあっ!」
「あら。怖いかしら?」
 両手で握ってる麦わら帽子が吹き飛んでいっちゃいそうなくらい凄い勢いで鳥のお姉さんは飛んでいく。
「ぜんぜん! すっげー! お姉さん、かっけー!」
「フフフ。男の子はそうでなくっちゃいけませんわ」
 鳥のお姉さんに連れていかれた先は、でっかい木の上に作られたツリーハウスみたいなおうちだった。
「さぁ、着きましたわよ」
 バッサバッサっておっきな音を出しながら、お姉さんがゆっくりおろしてくれる。
 おうちの周りには梯子とか階段とかはなくって、お姉さん専用のヘリコプターの発着場みたいな天井が空いたお部屋におろしてもらった。
 天井の空いたお部屋からは、木と木の間をつないだ渡り廊下があって、渡り廊下を渡った先のお部屋はおばあちゃんちが3個は入りそうなくらいおっきなおっきな部屋で、天井は体育館くらい高い……すっごく広い、木で出来たお部屋だった。
 おおきなベッド、もこもこのカーペットに、鳥のお姉さんの翼の形をしたカバーみたいなほうきみたいな道具。
 切り株のテーブルとか、ぐねぐねした線と白と黒の点々で出来た『きりん』って書かれた絵とか、見たことないものがたくさんあって面白いおうちだった。
「こっちでお願いしますわね」
「あ、うん」
 すっごく大きなベッドは、一回、二回って羽ばたいて飛び上がったお姉さんが寝っ転がって翼を広げてもぜんぜん乗っかるくらい大きくて。
 うつ伏せになったお姉さんのとこまで行くのに、ぼくは10歩も20歩も這って行かないといけなかった。
「腰の辺りをお願いしても良いかしら」
「うん、わかった」
「助かりますわ。やさしくお願いしますわね。やさしぃく」
 お姉さんの背中は、普通の人と全然ちがう背中をしてた。
 腕の翼は、二の腕のところからだんだん翼になっていってて。
 背中は、肩甲骨の下くらいからお腹の横の上のとこを通って、身体の前の方まで真っ白い羽が生えてってた。
 腰の所は普通の人みたいになってて、ちょっぴりひんやりしてて、ぎゅってやさしく押してみると中の方はちょっぴり硬くなってた。
「お上手ですわねぇ」
「鳥のお姉さんは、ひとりで住んでるの?」
「えぇ。そうですわよ」
「さみしくないの?」
「時折村人さんとお喋りしてますから、寂しくないですわ」
「ふーん」
「フフ。なぁに? 美人なお姉さんだから、心配してくれたのかしら?」
「うん。だってぼく、いっつも夏休みにおばあちゃんち連れてこられてさ、つまんないんだもん」
「あら。イマドキは携帯ゲームとかやるんじゃないんですの?」
「『WiFi無いんだからゲームは持ってかないの』とか言われるんだ」
「あらぁ、それはイヤですわねぇ」
「でもね、本当は最近おばあちゃんちにもWiFiが来たのは知ってるんだ。ぼくがゲーム持ってくると壊すと思ってるから、持っていかせたくないだけなんだよ、ぜったい」
「フフ。ボクちゃんはこーんなにやさしく女の子の事マッサージしてあげられるんですもの、ゲーム壊したりしませんわよねぇ」
「そうだよ」
 そうやってお話してるうちに、ぼくは鳥のお姉さんとお友達になった。
 次の日も、その次の日も、そのまた次の日も。
 お昼ご飯を食べた後は、お姉さんの川にやってきておうちまで運んでもらうのが日課になった。
 鳥のお姉さんはいつもぼくを待っていてくれて、川のそばまでいくといつもどこからか「ボクちゃーん」って呼んでくれた。
「むむむ……意外とやりますわね」
「ふふん、ぼくってばオセロつよいでしょー」
「あ。ここの角、取ーった♪」
「げっ」
 お姉さんとは、毎日まいにち色んなことして遊んだ。
 お姉さんちには人生ゲームとか、オセロとか、色んなボードゲームがあったから端から全部遊んでいった。
 トランプとかは置いてなかったから、おばあちゃんちから持って行ったりした。
「そうだ、ボクちゃんはUNOってやったことある?」
「あるよ。学校で休み時間によくやってる」
「じゃあお姉ちゃんともやりましょうよ! フフ、楽しくなってきちゃった♪」
 鳥のお姉さんはどうしてもUNOしたかったらしくって、村の売店で箱がボロボロになってるUNOを買ってきてからはしばらくUNOばっかり遊んだ。
 二人だとつまんないから、一人二つまで手札を持っていいことにしたりして、いっぱい遊んだ。
 そんな風に過ごしてたら、ある時。
「そういえば、そろそろ花火大会ですわねぇ」
 鳥のお姉さんが、器用に翼で掴んだトランプを出しながら言った。
「ボクちゃんは、どんな女の子と行くのかしら」
「行かないよ、花火大会なんて」
 ちょっとからかってくるものだから、ビシッとトランプを出し返してやりながら、言ってやった。
「あら、どうして?」
 パサ、って。
 手札を全部ベッドの上に広げて降参のポーズをすると、鳥のお姉さんは僕の顔を覗き込んできた。
「別に。お母さんはいっつもくじ引きさせてくれないし、おばあちゃんは要らないって言ってるのに綿あめ買って来るし、行ったってつまんないんだもん」
 せっかく勝ったトランプも全然楽しくなくって、ちょっとむつけながら鳥のお姉さんの顔をチラッと見てみると。
 ねずみ色の髪の毛がくすぐったいくらい近くに鳥のお姉さんが居て。
 鳥のお姉さんの金色の目が、ギラギラって音が鳴りそうなくらい光って。
 コツン、って僕のおでこと鳥のお姉さんのおでこがくっつくと。
「それじゃあお姉さんがナイショのデートに連れてってあげましょうか」
「ほんと!?」
「えぇ、ほんと。花火大会の夜、お部屋の窓を開けて待っていられるかしら」
「うん、待ってる。僕の家わかるの?」
「ンフフ、もちろん。お姉さんは何でも知っているんですのよ?」
 そうして花火大会の日、当日。
 僕が花火大会に行かないって言ったら、お母さんは「親戚の人たちと一緒に行ってくるからおばあちゃんと待ってなさいよ。焼き鳥の皮買ってきてあげるから、大人しくしといてよ」って言って出て行った。
 扇風機を止めて、窓を開けて、まんまるなお月様を見ながら鳥のお姉さんを待っているとおばあちゃんが蚊取り線香を付けながらやってきた。
「なんだや、デートがい?」
「え! なんでわかるの?」
「お母さんがお父さんば待ってった時とおんなじ顔してるもの、わかっちゃや」
「そんな顔してないし……」
「ほら。こいづさ持ってきな」
 そう言っておばあちゃんがタンスの上からおろして来たのは、立派な箱に入った白いお花のアクセサリーだった。
「これは、クサイチゴの髪飾りで、おばあちゃんがじいちゃんとこさ来っときに持ってきて、お母さんがお父さんと結婚式さ上げっときに着けて、孫が出来たら男ん子でも女の子でも上げっぺなーって取っといたの」
「いいの?」
「良いがら。やさしく耳んとこさ掛けてやんだよ」
「うん」
 そう言っておばあちゃんがお部屋に戻ってった頃。
 バサッ、バサッ、バサッて鳥のお姉さんが羽ばたく音が聞こえてきた。
 庭に出ると、おっきなおっきな翼を広げて、鳥のお姉さんが降りてくるところだった。
「ずいぶん待たせちゃったかしら」
「ううん、ぜんぜん」
「あら。その可愛いお花飾りはなぁに?」
「これ……あげる」
「わたくしに?」
「うん」
「フフ、ありがと」
 鳥のお姉さんは、地面に降りると翼をたたんでしゃがみこむと、目を閉じて僕の方に顔を向けた。
「着けて?」
「えー……?」
「ほぉら、お願い」
 僕はお姉さんのねずみ色をした髪の毛にそっと巻き付けて、耳の所に白いお花の髪飾りが来るように留めてあげた。
 ふわふわでつやつやなお姉さんの髪とか、お姉さんのふにふにの耳に触るのが、なんか変な感じがした。
「ん、可愛い?」
「うん、イイ感じ」
「フフフッ。ありがと、ボクちゃん」
 鳥のお姉さんは嬉しそうに笑うと、おっきく羽ばたいて僕のことをわし掴みにすると一気に飛び上がった。
「それじゃあ今度は、わたくしからの贈り物ですわ」
「わ~!」
 お姉さんは今まで見たことないくらい高く高く――ばあちゃんちの明かりが豆粒くらいちっちゃくなるくらい高く飛ぶと、花火大会のお祭りの方に向かって飛び出した。
 すると、ちょうどドーン、ドーンって花火が上がって。
 僕とお姉さんは、二人っきりの特等席で、一番でっかい花火を見た。
「わぁ……」
「フフ。こんなの初めてでしょう?」
「うん!」
「たのしい?」
「うんっ! こんな花火だったら毎日見たいっ!」
「ンフフ。嬉しいっ!」
 鳥のお姉さんはバサッ、ってまたおっきく羽ばたくと、勢い良くスピードを出して花火の周りをぐるーって回り出した。
「ボクちゃん、ありがとう」
 ビュービューほっぺたに吹いてくる風が、ちょっぴりひんやりしてて気持ちよくて。
「あんまり長く生きていると、嫌になることも多いんですのよ」
 僕の体をガッシリ掴んでるお姉さんの足が、風よりも冷たくて気持ちくって。
「でもやっぱり、ボクちゃんが毎日わたくしを待っていてくれるのが本当に……フフ、本当に嬉しくって」
 キラキラ遠くに見えるお祭りの明かりが、すんごく綺麗で。
「あと100年くらい、生きてても良いかななんて、思っちゃったんですわ」
 お月様に照らされながら僕のことを見つめてニッコリ笑う鳥のお姉さんが、今まで見たどんなお姉さんより楽しそうで。
「だから、ありがとう」
 僕は、最高の気持ちだった。
「うん! ぼくも! お姉さんと! ……わかんないけどとにかくさいこ~!!」
「フフフッ。えぇ、さいこ~! ですわ~!!」
 
 ………………。
 
 …………。
 
 ……。
 
 あれから十五年。
 僕は、あの鳥のお姉さんと出会う事は二度と無かった。
 あの山奥の川へと続く道は、二度と見つけられなくて。
 鳥のお姉さんに会いたくて、何度も何度もヤブの中を駆けずり回った。
 けれどいつの日からか、僕はお姉さんを探すことをやめて勉強に打ち込むようになったんだ。
 僕は、たまたまあの最高の夜を経験出来るきっかけになってくれたマッサージを極めたくって――いや、いつの日かもう一度、あの夏の日のように、狭苦しい日常から僕を連れ出してくれる人に出会える事を期待して。
 もしもあの日のように、腰を痛めた鳥人に出会った時には今度こそ、本当の意味で力になれるようにと思って、関東の大学の保健医療学部を出た。
 理学療法士となった僕は、毎日忙しくてお姉さんの事を思い出す回数もほとんどなくなってしまったけれど、今でも僕が患者さんへ向かい合う時には……いつも、あの夜の事を思い出している。
 あの夜、お姉さんが僕へ、最高の贈り物をくれたみたいに。
 僕も誰かへ、最高の贈り物がしたくて今日も患者さんへ向かい合う。
 僕のこの手が、あの時みたいにいつか誰かの心へ届く事を信じて。
「えーと、次は……鷹羽奈シルヴァさん、鷹羽奈シルヴァさーん。こちらへどうぞー」

おしまい

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