◆本文
「……あ。ちょっと、遅いんだけど？」

 

「はぁ？　”人が多すぎて見つけられなかった”じゃないでしょう？」

 

「アタシがせっかく誘ってやったんだから、さっさと来なさいよね。もう」

 

「……で？　女の子が浴衣着て来てやったっていうのに、感想のひとつもないわけ？」

 

「えっ？　”まじで可愛くてびびった”って……」

 

「ふぅん、そっか……可愛く見えたなら、まぁ……いいけど……」

 

「あ……アンタも、そこそこ良い感じなんじゃない？　いつものダサダサな格好と比べたらの話だけど！」

 

「ねぇ、なんでそんな気合い入れた格好で来たわけ？　まさか、デートだと思って気合い入れてきたとかぁ？」

 

「なっ、”その通りだけど”って……」

 

「よ、よくそんな恥ずかしいこと言えるわね！？　バカじゃないの！？」

 

「えっ、”お前はどういうつもりで来たんだ”って……」

 

「そりゃあ、友達と遊びに行くくらいのつもりに決まってるじゃない……こ、このくらいの格好、女の子は友達と遊ぶ時だってするのよ」

 

「あ、アンタとデートとか、有り得ないし……」

 

「はぁ！？　”じゃあ勝手にデートだと思うことにする”って、ちょ、ちょっと！」

 

「なにを一人で行こうとしてんのよ！」

 

「その……花火見えるとこまで、人、すごい多いし……はぐれそうだし……」

 

「……手、繋ぎなさいよ。デートなんでしょ。ちょっとは、その……エスコートしなさいよ」

 

「ん……手汗かいてるとか言ったら殴るから」

 

「うっさい、ばか。可愛いとか言うな」

 

「さっさと歩きなさいよ。花火、始まっちゃうでしょ」

 

おしまい